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やっと、春。

今年の春は遅かった、と誰もが言う。
けれど桜が咲き鶯のさえずりが聴こえると
凍った坂道や軒先の段々大きくなる氷柱は
あっという間に記憶の端に追いやられ、影も薄くなる。
去年いつまでも上手に唄えなかった鶯の声が
”鴬町”という地名にふさわしく
去年より早く美しく響いた隣の谷間に、
ひっそり穏やかな春の訪れを知らせる貝母が群生している。
網笠百合ともいわれるその姿は
春を喜ぶおどけた妖精の踊るしなやかな四肢の様。

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